遺言で財産が全部取られそうになったら?(遺留分のお話)

私の弁護士事務所で多い相続の相談ケースについてのご紹介シリーズ(その2)でございます。

前回、遺言はご本人の「人生最後の財産処分」なので、相続する人たちは基本的に「その通りに分けるしかなくなる」って話をしました。

でも・・・よく考えると、そのルールだと「まずいパターン」もあるんですよね。

今回は遺言で財産を全部取られそうになったら?という題で、遺留分についてお話していきたいと思います。

来たる!法律事務所からの手紙

ご主人が亡くなられて四十九日も過ぎ、「そろそろ子供たちとの間での遺産分割をどうするか考えた方がいいのかしら・・・」と考える奥様。

ふと家のポストを見たら、法律事務所からお手紙がやってきていました。おそるおそるその手紙を開けると・・・・

拝啓 〇〇様のご親族の皆様


 当職は、故人である〇〇様の相続人である△△氏(知らない女性の名前)の代理人に就任した、弁護士の・・と申します。ご親族の皆様におかれまして、〇〇様の御逝去のご心痛、いかばかりかと痛み入ります。

 さて、故〇〇様におかれましては、生前に「△△氏(多分愛人)に対し財産の全てを相続させる」旨の遺言を残されておりますことを、ここに通知させていただきます。

 今後、裁判所における検認等の手続を経た後、遺言執行者たる当職におきまして、財産の受け渡し等をさせていただきますので、ご承知おきのほどどうぞよろしくお願いいたします。

ええーっ!!△△って誰よ!! ・・・・パタン(奥様、血の気が引いて倒れる)

あぁ、無常・・・遺言で財産は取られる?

さぁ、ここからどうするかって話ですね。

このまま遺言のまま、△△さんに財産を持っていかれてしまうのか?

そもそもお手紙の状況を解説するに、私としても、なかなか気を遣う状況です。

最首
最首

えーと、この△△さんという方とご主人との関係は、このお手紙ではよくわからないのですが(いや、ほんとわからないなー)『全部、その人に財産をあげる』という遺言をご主人が書いたと言うことみたいですね(なんでかなー)。

「今後、その遺言に沿って、財産をいただきに行くので準備しといてね」ということかと・・・。

いやはや、伝える僕の方もしんどいですわ、こんなの・・・。

日本で「後妻業」が成立する訳

「旦那さんの遺産が全部持ってかれる」っていうのは、かなーりまずい状況なわけです。

そう、遺言ってこういうことができちゃうんですよ。(ホント怖いですねぇ。恐ろしいですねぇ。)

特に日本の場合、夫婦の財産の名義は旦那さんの方に偏りがち。(アメリカだと夫婦共同名義預金とかあるんですけどねぇ。)

だから「後妻業」ってお仕事(?)がうまーく成立するわけです・・・

こうなると住んでいる家とか土地とか預金とか、あらゆるものが愛人に持っていかれかねない

それがこの「全部を相続させる」遺言のパワーなのです。

さぁこういう時、どうしたら良いのでしょう。奥様や子供たちとしては、もうお手上げなんでしょうか。

さぁ財産を取り戻せ!遺留分制度が大活躍

実はそーんな日本の事情を踏まえて、法律(民法)はあらかじめ一定の歯止めをかけてくれています。

それが「遺留分(いりゅうぶん)」制度というやつです。

遺産の処分は、遺言などでハッキリ示された場合には「所有者であった本人の意思に従う」が原則なのですが、それだと生活に困っちゃうだろう相続人、奥様やお子さんたちには「最低限の補償を求めることができる権利」が保証されているのです。

今回のケースで言うと、奥様やお子さんたちには「法定相続の場合の半分」、全体ととして「遺産の2分の1」をその愛人に金銭的に請求する権利があります。

これを行使して、遺産を取り戻しにいくことになるわけですね。

遺言で財産が取られそうになっても遺留分で、ある程度は戦えるのです

さてさて、実際のケースでは「そもそもその遺言、本物かいな?」っていうところもツッコミどころになるわけですが、万が一本物だったとしても「遺産の2分の1の金額を取りに行く権利がある」ことになるので、財産の名義がほぼ旦那さんだったケースでも、奥様や子供たちはある程度、愛人との財産の取り合いで戦えることになります。

最首
最首

(それでも2分の1は取られちゃうわけですが・・・まぁ、そこは旦那さんの意思だからしょうがないんですよねぇ。。。)

ただ遺留分は時効が(気づいた時から)1年だから、やばい遺言を見つけたら早めに動く必要はあるので、その辺は気をつけてくださいまし。

(逆に、たくさんもらった人は、時効を中断されずに1年逃げ切ったら勝ちですね)

ちなみに、ここまで極端なケースでなくても、遺言による財産の分け方が極端にかたよっていた場合、たとえば、日本では結構ありがちな「財産は全て長男に譲る。他の子たちには一切なし!」みたいな遺言が残された場合にも、他の兄弟は、長男に自分の「最低限の取り分(法定相続分の半分)」を請求することができます。

なので、明治以来の家督相続みたいなやつは、現代では(特に法律に詳しい人のいる家族では)行うことができないようになっている、というわけです。

もちろん、遺留分は行使するかどうかは自由なので、皆がその相続に納得していれば構わないんですけどね。

ではでは、今日はこの辺で。

(お断り)
このブログの情報は、簡明な理解のために厳密さを省いている所がところどころあります。なので実際に行動される際は、念の為、お近くの専門家にご確認くださいませ。(もちろん、私のところにご相談いただいてもOKです。)


ご紹介している事例については、事案を組み合わせる、一部改変するなどして、実際の特定のケースと結びつかないようにしております。

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