M&Aに関わる業務(弁護士なら最低ここを見るよね、みたいな話も)

地元の弁護士会にいて「どんな仕事してるんですか」と聞かれて、話すたびに「説明がなかなか難しいなぁ」と思うのがM&A(企業の合併/買収)関連の分野です。会計士にとっては馴染み深い分野であるものの、弁護士の方にはちょっとイメージが湧きにくい分野のようなのですよね。

最首
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とはいえ、複合分野ですから法律分野のプロフェッショナルの関与はとっても重要で・・・なので、少しそれについて書いてみたいと思います。

会計士にとってはあらゆる知識を動員する花形分野

私はもともと監査法人にいたのですが、M&Aへの関与というのはちょっとしたイベントというか、事務所やチームとしても大きな仕事でした。取引サイズとして見ても、上場企業が関わるようなものは、小さくとも数十億、時には数千億といった大規模取引になりますし(なにせ事業や企業の価値全体を対象とした売買をするわけですから)

関与のあり方としても、

  • 事業や株式の価値算定(「バリュエーション(VAL)」と言ったりします)
  • 買収時の調査(「デューデリジェンス(DD)」と言ったりします)
  • 上記をもとにした取引交渉(「トランザクションアドバイザリー(TA)」とか言ったりします)


など、会計やファイナンスの知識、監査の技術を総動員して行うことになりますから、腕が鳴らない会計士はいないのではないかと。

スケジュールはタイトにお尻が切られている一方で、やるべきこと、確認すべきことが多く、優先順位づけや取捨選択が必要といった意味でもスリリング。それに対応して報酬もそれなりで良く、監査の収益性はやや低めなので、事務所としてもありがたい仕事だったんですよね。

弁護士のM&Aへの関与って・・・(ちょっと控えめですよね)

こういう話を弁護士さんにすると、あんまりピンとこないみたいなんですよね。というおんは、弁護士の関与ポイントって、典型的には「クロージング契約(株式譲渡契約書とか)」を巻くときで、なんというか、それほどアレンジの幅もないし面白くない(?)のかもしれません。

クロージング契約にも、対価変動(アーンアウト)条項とか、表明保証条項のデザインをどうするかとか、いろいろあるんですけど、そういった条件を決める部分は、すでに基本合意やDDの結果などで決まってくるので、あとから関わる形だとデザイン要素がなくてつまらない(言われたままにつくる感じなので)のかなぁと。

ただ、売り手/買い手のニーズのズレの把握とか、それに応じたスキーム作りとか、そのあたりから関わっていると、交渉や調整の余地とオプションはたくさんあって、そのあたりこそ、交渉力/提案力のある弁護士の出番なんだと思うんですけど、なかなかそこに入り込んでいる方は見ないですね。

コレを逆に見ると、依頼者が一番知恵を貸してもらいたいタイミングで、弁護士が現場に不在ということでなんか勿体無い状況のように感じます。

なので私のユニークなポジションは。。。

という話ができるのは、私自身が直接M&Aに関わるという案件はそれほど多くないのですが、M&Aアドバイザーの方の顧問をしているので、かなり早いタイミングで「こんな感じで双方の思惑のズレがあるんですけど・・・、なんかいいスキームありませんか?」と案件の相談が来るんですよね。

アドバイザーさんは、株式譲渡にするか事業譲渡にするかとか、そのあたりのスキーム選択のレベルについてはある程度の知識がありますが、細々とした実務的な課題を乗り越えるための方策については、必ずしも詳しくありません

彼らのプロフェッショナル領域は、相性のいい企業同士を出会わせること(マッチング)や、大きな決断とシフトを迫られることになる経営者に寄り添うこと(サポート)なので、私たち職人のように細々したところまではカバーしていないのです。

最首
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そして、それでいいと思っています。というのは・・・

最良のM&Aアドバイザーというのは「自らが企業経営を経験したことのある、事業者意識のある人(もちろん自らM&Aの経験があるとなおよし)」なので、良いアドバイザーほど専門職とはスキルが被らないのです(もちろん私見ですが)。

なので、この辺は普段、取引におけるトラブル解決ばかりしている(?)職人肌の会計士や弁護士の経験と知恵が組み合わせ的に役に立つところなんですよね。

M&A取引上の致命的欠陥・・・弁護士なら普通に気がつきます。

特に弁護士の感覚が役に立つなと思うのは、契約領域のDD・・・・とよく言われるんですけど、一番は「M&A取引上の致命的な欠陥」の発見と対処でしょうか。

いや、そんな話題聞いたことがないと思うんですけども(アドバイザーはまず言わないですからね)、M&A取引って、たまに重大なポイントが欠落しているやつがあるんですよ。なぜか私よくこの手の取引の後始末に、昔からご縁があって、よく対応させていただいているんですが。

えーと、法律をちょっと学んだことがある人であれば「他人物取引」って概念をご存知の方がいるかもしれません。何か物を買う時には、その「所有者」から買わなくちゃいけなくて、「所有者じゃない人」から買っても、そのモノの所有権を手に入れられないっていう話です。

素人感覚としても、わかりますよね。契約は合意があれば成立しますが「おっ、その時計いいね、10万で売ってよ」「いいですけど、それオレのじゃないですよね」てなったら、この時点では取引不成立でしょ。「それ兄貴のだから、兄貴に言ってください」って言わなきゃいけなくて、そのあと「兄貴」と話さないと取引できません(なんか、この代名詞だと不穏な雰囲気が漂いますねw)。

最首
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こういう会話が出てくるのは、時計には「誰の持ち物」って書いてあるわけじゃないからなんですよね。不動産とかだと、登記簿を見れば、ある程度オーナーははっきりするんですけども。

で、会社って登記簿があるんですけど、そこにオーナー(株主)が誰かは書いてないので、そういう意味では、不動産より時計に近いんです。そうすると、たまに「なんちゃって株主」から会社買っちゃう人が出てくるんですよね。

会社の株式関係って、時折複雑なので・・・

会社の株主って、経営陣の交代とか相続とか発生した時に、動くことがあるんですよね。そして、株主名簿でその変化をちゃんと管理している会社って中小企業ではあまり多くな。なのでM&Aの時には、株主と思われる人から買おうとすることになるんですけど、そこを調査し切らない(あるいはできない)場合が結構出てくるんです。

これをどう処理するかって、結構難しいんですよね。ただ、持ち主がわからないものは本来的には買えないんですよ。弁護士だと「取引の当事者は誰ですか、取引の対象は何ですか」と反射的に考えるので絶対そこがおかしければ気がつくんですけど、この点が見過ごされているM&Aが世の中にはちょいちょいあるのです。

ちなみに早めに気がつけば、仕組みで補正する方法はいくらでもあります。税務的に選択可能なオプションの中で、個別資産の譲渡にしてしまうとか、株式移転で100%子会社にして、その子会社株式の譲渡という形式にするとか。適式な株主総会決議さえしておけば、取消期間の3ヶ月経過後は基本的にクレーム入れられなくなるみたいな会社法のルールなど、取引を安定化させるために活用できる仕組みやノウハウが法律の世界にはたくさんあるので、オーナーが多少不明な程度であれば、テクニカルなやり方があるってことです。

どうしても無理・・・なやつこそ、ご相談ください(なんとかできるかも)

なので、うちの事務所に来る相談は「これ、どうしても無理ですか?」ってやつが多くてですね・・・ちょっと考えた上で「いや、なんとなると思いますよ」と回答して、やり方を調べて提案するってことが多いです。

最首
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まぁ、本当に無理なやつもあるので、安請け合いはできないのですけども(それは普段の法律相談でも同じようなところがあります)。

ということで、うーん、なんだろう、かえってわかりにくくしてしまったかもしれませんが、私のやっている仕事、M&Aへの関与編でした。こんな記事でもちょっとは伝わるんでしょうか、どうなんですかね(どうぞご感想お聞かせください)

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