精神保健福祉(精神医療)分野における弁護士としての活動

この3月から、日弁連(=日本弁護士会連合会)の高齢者・障害者権利支援センターというところの幹事になりました。担当分野は、精神保健福祉領域(精神医療を受ける方の人権にまつわる分野)です。

私は両親が医療関係者で、親族や友人に当事者も何人かいたり、様々な依存症の自助グループや回復施設の活動に参加してきたご縁もあり・・・・また私自身、臨床心理分野の支援職(カウンセラー)でもあるので、必然といえば必然の出会いなのですが思わぬタイミングで入ることになったなぁという印象です。

そんなこともあって最近は実家の父の書斎から医療関係の本を借りて何冊か読んでいたりします。父の蔵書の内容は、ちょっと古いので今時の本と合わせて併読したほうが良さそうだなぁと思いつつも、なんとなく役割についた縁を思うと、父の辿ってきた思索の道程を歩いてみたくなったりしまして。

最首
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父は地域医療の深化に興味を持っていて、クリニックの院長を引退した後は訪問医療を手がけたいと言っていたんですよね(諸事情あって、残念ながら叶わなかったのですが)。

弁護士と精神医療分野の関わり

弁護士の仕事の中で、精神医療分野の仕事というと、典型的なところでは「退院請求」や「処遇改善請求」の代理人活動があります。精神病院に入院している(されられている?)方の要請を受けて、「そろそろ退院させて欲しい」という請求の代理人をしたり、「入院環境を改善して欲しい(たとえば、身体拘束をやめてほしい)」という請求の代理人をしたりする仕事です。また、そういった請求があった際の審査を担当する「精神医療審査会」の委員をやるのも弁護士の仕事だったりします。

委員の大多数は医療関係者なので、どうしても治療優先の考え方になりがちな中で、当事者の代弁者(アドボケイター)ないし擁護者的な役割を期待されているというのが弁護士がやる法律委員の仕事ですね。

なお、精神科の治療を受けるのは「個人の選択に基づく(治療を本人が受けようと思っている)のが大原則」なのですが、日本には「精神保健福祉法」や「医療観察法」という強制入院を行える法律があって、本人の意思に反して入院が強行されてしまうことがあるために、その場合の人権的配慮を求めるというのが現時点における弁護士の仕事です。

というのも、日本は他国と比較すると、医療機関の決定権が強く、かつ、入院が長期化する傾向(年単位になることも多い)があって、刑事犯罪の結果、刑務所で受刑することになった方以上にご本人が「社会から切り離されてしまう(→長ければ長いほど復帰は困難に・・・)」ことになりがちな制度だからです。

最首
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強制入院は、その結果(=期限未定の施設内隔離)が強烈なわりに手続がシンプルで・・・。数十日程度の身柄拘束にあたって何度も裁判所のチェックが入ったり、異議申し立てが可能な刑事司法と比べて、本人の人権を守るための手続きがはるかに薄いようなところもあるのです。

国連レビューで問題視された日本の強制入院制度

なお「現時点で」と書いたのは、この強制入院制度(長期の入院を伴うもの)は国連から「障害を理由とした人権侵害である」として廃止勧告を受けている真っ最中で、日弁連からはその廃止を目指した意見書が出され、法改正に向けた議論がされているところだからです。私がアサインされることになったのは、この活動に関わる委員会ですね。

上記勧告は、日本が2014年に批准した障害者権利条約について、2022年に国内での関連政策の実施状況のレビューを受けた際に受けた指摘事項です。あくまで既存路線を維持する日本政府の方針と、国連の考える「最低限守られるレベルの人権」の間に大きな乖離があったわけですね。その違いの内容は、もちろん文化に起因するところはありながらも、ある程度は「人権感覚のレベルの違い」と言わざるを得ないところもあるように思います。

(ちなみにもう一つの主たる勧告事項は、日本の教育における「インクルーシブ教育」についての問題です。障害を持つ児童を「特別支援教育」へと隔離する(通常クラスの他の子と分断する)ことを原則として教育が実施されてしまっているという点です。日本の教育現場のキャパシティの問題にもかかわる点で変化には時間がかかるだろうなという気がします。)

「居場所づくり」に心を砕いてきた病院もあるのだが。。。

精神科における強制入院の問題については、これまでも臨床心理職としてトレーニングを受ける中で、精神科医や臨床心理士、精神保健福祉士(PSW)などのコ・メディカルの方々とも様々に交流したり、ヨーロッパの精神保健医療改革(イタリアのバザーリア法の経緯など)の情報にもディープに触れてきたので、比較的親しみのある分野ではあるのですが・・・

最首
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実際にその変革のための活動に関わると、乗り越えていかなければならない難しさは相当に多いなぁと感じているところです。(もちろん、その分やりがいも感じるところではあるのですけれど・・・・)

そして変革にはどうしても「現状の否定」という文脈が伴うのですが、私自身が医療関係者との関わりが深いこともあるからか、日本の精神医療分野を現場で支えてきた方々へのリスペクト抜きには議論できないところでもあるなぁと思っています。そこには関係者の方々が苦しんできた日本の精神科医療の構造問題もあるし、その中で「本当は変えていかなければならない」と思いながら、抜本的改革の契機を得られずにきた苦しさもあるでしょうから(なので、バッサリと「あなたたちがやっていることは人権侵害だ!」とは言いたくない気持ちがどこか私の中にあるのです)

日本の精神科医療のマインドというのは、日本の精神科病院の歴史的起源が、近代以前から人々の苦しみの救済をになってきた寺社等であることにも関連しているのだろうと思うのですが、医療機関である以前に、福祉施設としての意識が強いのもその特徴のように私は感じています。(その点はヨーロッパの強制隔離性が前面に出ている施設とは、だいぶ違うように感じるんですよね。。。)

もちろん、日本の精神病院でこれまで起こってきた(そして今も起こり続けている)悲劇的な虐待等の事件を思えば、明治以降の西洋式医療の導入の中で問題部分もそのまま輸入されてしまった感はあり、そこには欧米流の対決型人権擁護手段も含め当事者目線で確実に対応していかなければならないわけですが、ヨーロッパでの議論のように精神病院を「社会的入院に用いられる社会的装置」と一面的に断じることには、私はためらいを感じています。

むしろ、障害を抱えた人にとって行きずらい日本の世の中で「居場所」を作ることに心を砕いてきたしてきた病院も少なくないように個人的には思っています。現代の精神医療の潮流で精神病院はあくまで医療実施機関と割り切られ「早期退院」を促す制度になっている中で、自ら出資して医療の後の居場所となりうるグループホームを医療機関が設置するようになってきている流れもありますので。こういったことは病院の意識が福祉的な役割に向いているからこそ起こることなのではないでしょうか(もちろん、そのスタイルに是非はあるのでしょうが。。。)

ともあれ大きな変化の時期は近づいている

いずれにしても何かを変えなければいけないことは間違いないし、大きな変化に向けた時は満ちつつあるように思います。そして何より「私たちには、それを実現することができる」と私は思っています。日弁連の2035年に向けた長期ロードマップはその一つの表現ですね。

イタリアで精神医療改革の父と呼ばれたフランコ・バザーリアの書籍に「自由こそ治療だ!」という、晩年のブラジルでの講演を収録した一冊があります。その中で「理性の悲観主義より、実践の楽観主義」という言葉があるのですが、私は日々の実践に基礎を置くこの姿勢が好きです。答えのない問題に前もって答えを出そうとせず、ローカルな実践の中で答えと手応えを見出していく姿勢は、自分自身のスタイルとも通じるものだと思っています。

一人の人間の力を超えるような大きな問題というのは、自分の頭という狭い世界だけで考えるとどうしても難しくなってしまうように思うのですが、現場で感触を得ながら進めていくことが道標をくれることが大いにあると感じます。自らを神のような視点に置いて思考してしまい問題を難しくしすぎてしまうというのは(ミシェル・フーコーが指摘したように)現代人が陥りがちな罠のようにも思います。

また同様に、彼のブラジルでの講演の言葉ですが「その地(ブラジル)のことは、その地(ブラジル)の関係者が考え続け、答えを出していく他ない問題だ(私がその回答を教えることなどできない)」という当事者の主体性を尊重するバザーリアの姿勢もとても好ましく感じており、この呼びかけにこそ(時代を超えて)応えて行きたいと思っています。

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なので日本のことについては、日本の医療関係者(ここには当事者のアドボケイターである私たち弁護士も入るのだろうと思っています)が大いに議論しながら試行錯誤し、その時々のローカルな答えを出しながら前に進んでいく、そういった生きた実践を重ねていくのが良いのだろうと思っています。

なお、全くの余談なのですが、私の好きなチェ・ゲバラ(彼は元々医師なんですよね)もまた病を抱えた人が不当な差別的な扱いを受けていたハンセン病の隔離コロニーを訪れていて、そのことが彼が格差を肯定する資本主義のカウンターカルチャーであった社会主義運動に向かう転機になっているんですよね。その姿はどこかバザーリアの姿にも重なるところがあります。二人についてはそれぞれすばらしい映画作品があるので(そしてさまざまなことを感じ取れると思うので)ご関心ある方はぜひ見てみてください。なお「昔Mattoの・・・」の方は、この書籍にDVDがついています。

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