私の弁護士事務所で多い相続の相談ケースのご紹介シリーズ(その3)でございます。
ずっと遺言がらみの話をしてきたので、「じゃぁ、具体的に遺言はどう書けばいいの」って話を。
書くときに重要なポイントを押さえつつ、今回はそれなりに突っ込んで、書き込んでみました。
まずは「法定相続人の確認」から
遺言作りの相談の時に私が話を聞いていくポイントは、
- 法定相続人の確認
- 遺産リストの作成
- 具体的な分け方の書き起こし
この3つです。
本人の財産処分ですから、本来的には、①の「法定相続人は誰か」は「関係ないといえば関係ない」のですが、前回紹介した「遺留分」問題があるので、そこを無視して遺言を書いちゃうと、自分が死んだ後に紛争になるリスクがあるので、あらかじめその点を検討します。
例えば、配偶者やお子さんだったら、法定相続分の2分の1を最低ラインにするわけですね。
この計算は「遺産の先渡し(生前贈与)」的なことをやった場合は減るので、その分も加味して検討します。
相続の際に「生前贈与に気づいてもらえない」みたいなことも多いので、遺言にも
「この人には、別紙Aの通り、✕✕年に◯◯を贈与しているので、その分相続する財産は少なくしてある」
と(資料を引用して)書いておくとパーフェクトです。
また、法定相続人って、実際は亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を辿って確認する訳でして、「前婚時代のお子さん」とかも入るので、なかなか単純に行かなかったり。
この辺もプロが入る場合は、念の為、戸籍を見ながら確認したりします。
遺言書のための「遺産リスト」をコツコツつくる
次に作成するのは「遺産リスト」ですね。
銀行口座をリストアップしたり、不動産の名義を確認したり、事業をやってれば事業用資産や株式も関係ありますね。
ちゃんと確認してみると、思ってたのと違う名義が出てきたり、「あれ、この会社の株主誰にしてたっけ? 自分だっけ、後継の息子だっけ?」とかって、相談を受けていると結構あるんですよー。この辺は整理しておかなきゃいけない。
コツコツ、資料を集めながらリストアップしていきます。
通帳の表紙コピーとか、不動産の登記簿とか、株主名簿とかを遺言の別紙にしてもわかりやすいです。
なお、全体をリストアップしていく一覧表(財産目録)は、パソコンでの作成でOKです。
私が作成する場合は、他の資料と合わせ「別紙A」とナンバリングして、全体のページ数も振った上で、1枚1枚署名押印をしてもらうようにしています。
ようやく遺産の「分け方」を書く
ここまでくるとようやく、何を誰に渡すかっていう話になる訳です。(前置きが長かったなー)
この部分は、自筆で書かないとダメですよ!(遺言が無効になっちゃいます)
私は、私の所有する別紙1(財産目録)の財産の
第1 不動産(〇〇)を、妻・・・・(昭和○年○月○日生)に相続させる。
第2 預貯金(△△銀行)を、長男・・・・(昭和○年○月○日生)に相続させる。
第3 株式(□□社株)を、長女・・・・(昭和○年○月○日生)に相続させる。
第4 預貯金(●●銀行)を、次男・・・・(昭和○年○月○日生)に相続させる。
という感じで、書いていきます。
最後は、いわゆるバスケット条項で、「ここに記載のないその他の財産は、全て◯◯(続柄)に相続させる。」としておくと、行き先の指定に漏れがなくなります。
最後に、日付、署名、押印も忘れずに。
遺言執行者の指定を忘れずに!!
で、大事なことはこの先です。実はここまでだと完成度50%くらいなんです。(内容的には100%なんだけど)
合わせて、必ず書いた方がいいのは、「私は、この遺言の遺言執行者として、◯◯を指定する。」という一言です。
弁護士とか司法書士とか専門職を選んでおくのもいいです(理由は後ほど)。
というのも、この一言があるとないでは、実際の財産分けの際に、手続きに大きな差が出るんですよー。
この言葉が遺言書にないと「相続人全員の協力がないと、実際に財産が動かせない」のです。
銀行口座を解約したり、不動産の登記を移したり・・・肝心のこの作業が相続人全員じゃないとできなかったら、(揉めてもちゃんと指定通りにするための)遺言の意味があんまりないですよね。。
「本人の(死後)代理人」には専門家(弁護士)がおすすめ
ちなみに専門家を遺言執行者にするといいのは、利害関係のないところで、淡々と遺言の実行を進めてくれるところです。
通知を受けたら速やかに口座の凍結に動くので、勝手に遺産が持っていかれそうになるリスクも抑え込めますし。
あと、この場合に弁護士が出てくると良いのは、「ご本人の代理人」ってイメージで動けるからなんですよね。
相続人さんたちも、誰か特定の一人が取り仕切ると何かイヤ(疑心暗鬼になっちゃったりする)けれど、「ご本人の代理人」的な感じで専門職が出てくると、それが自分に不利でも納得できるし、文句を言いにくい雰囲気もあるし(笑)、安心して任せられる部分があるんです。
ちなみに専門家のタイプによっては、遺言執行の際に、遺言作成時のエピソード(ご本人の考えや想いとか)を伝えてくれることも。
関係者にとっては「思わぬプレゼント」だと思うんですが、相続人間の緊張を和らげてくれる点で、とても大きな意味があるなぁと個人的には思います。
今回は「遺言の書き方」、プラクティス版を書いてみました。
ではでは、この辺で。
(お断り)
このブログの情報は、簡明な理解のために厳密さを省いている所がところどころあります。なので実際に行動される際は、念の為、お近くの専門家にご確認くださいませ。(もちろん、私のところにご相談いただいてもOKです。)
ご紹介している事例については、事案を組み合わせる、一部改変するなどして、実際の特定のケースと結びつかないようにしております。